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「王城の護衛者」松平容保  第四回 会津藩祖「保科正之」の教え〜家訓(かきん)


容保が養嗣子として入った会津松平家の藩祖は家光の異母弟・保科正之であった。(第二回頁参照)
保科正之は家光の遺言に従って第四代将軍家綱を補佐した。そして主君や法への絶対服従を第一義とする朱子学(儒学の一派)の影響を大きく受けた会津藩の憲法ともいうべき教え「家訓(かきん)」を定めた。

家訓は本来なら「かくん」と読みたいところだが、会津松平家では「かきん」と言い伝えられてきている。

この家訓(かきん)は代々の会津藩主によって幕末まで守り伝えられた。
容保が「薪(たきぎ)を背負って火を消しに行くようなものだ」とまで言われた京都守護職を拝命する決意をしたのも、この家訓の存在が大きかったと言われている。

いったいどのようなことが書かれていたのだろうか。各条文について原文、読み下し文、解釈文の順に表示する。

一 大君之儀 一心大切可存忠勤 不可以列国之例自処 
   焉若懐二心則非我子孫 面々決而不可従


   大君の儀、一心大切に忠勤に励み、他国の例をもって自ら処るべからず
   若し二心を懐かば、すなわち、我が子孫にあらず 面々決して従うべからず


   徳川将軍のために、ひたすら大切に忠勤を励め。
   それは他の大名家と同じようなレベルではいけない。
   もしも将軍に対して反対の心を抱いたりする当主があれば、
   もはや自分の子孫ではない。そんな奴には決して従うな。
一 武備不可怠 選士可為本 上下之分不可乱

   武備はおこたるべからず
   士を選ぶを本とすべし 上下の分を乱るべからず


   武の備えを怠るな。士を選ぶことを基本とし、上下の身分を乱すな
一 可敬兄愛弟 

   兄をうやまい、弟を愛すべし

   兄を敬い、弟を愛せ。
一 婦人女子之言 一切不可聞

   婦人女子の言 一切聞くべからず

   妻女に政治への口出しをさせるな。
一 可重主畏法 

    主をおもんじ、法を畏るべし 

   主君を大切にし、法をかしこまって敬え。
一 家中可励風儀

    家中は風儀を励むべし

   風紀や行儀作法を正しくたもつよう励め。
一 不可行賄求媚

    賄(まかない)をおこない 媚(こび)を求むべからず

   賄賂(わいろ)やご機嫌取りを求めるな。
一 面々不可依怙贔屓

    面々 依怙贔屓(えこひいいき)すべからず

   えこひいきをするな。
一 選士不可取辟便佞者

    士をえらぶには便辟便侫(べんべきべんねい)の者をとるべからず

   人に媚びたり、口先だけがうまい者を登用するな。
一 賞罰家老之外不可参知之 若有出位者可厳格之

    賞罰は家老のほか これに参加すべからず 
   もし位を出ずる者あらば これを厳格にすべし


   賞罰の決定には家老以外は参加するな。
   その地位でない者があれば、これを厳格に運用せよ。
一 不可使近侍者告人之善悪

   近侍の者をして 人の善悪を告げしむべからず
   主君の側近く仕えるものを使って、人の善悪を告げさせるな。
一 政事不可以利害枉道理 僉議不可挟私意拒人言 
   不蔵所思可以争之 雖甚相争不可介于我意


   政事は利害を持って道理をまぐるべからず
   評議は私意をはさみ人言を拒ぐべらず
   思うところを蔵せずもってこれを争うそうべし
   はなはだ相争うといえども我意をかいすべからず


   政治は利害関係を持ち出して道理を曲げるな。
   会議では、私情を挟んで人が意見を言うことを拒むな。
   思うところは包み隠さず議論すべきであるが、どんなに争っても私情を挟むな。
一 犯法者不可宥
   法を犯すものは ゆるすべからず

   法律を破る者をゆるすな。
一 社倉為民置之 為永利者也 歳饑則可発出済之 不可他用之

   社倉は民のためにこれをおく 永利のためのものなり 
   歳餓えればすなわち発出してこれを救うべしこれを他用すべからず


   社倉は民のためにあり、未来永劫の利益のためのものである。
   凶作で民が飢えた場合にこれを使って救うものであるから、他の場合に用いるな。
一 若失其志好遊楽致驕奢使士民失其所即何面目戴封印領土地哉 必上表可蟄居

   もし志をうしない 遊楽を好み 馳奢をいたし 士民をしてその所を失わしめば
   すなわち何の面目あって封印を戴き土地を領せんや 必ず上表蟄居すべ


   もしも藩主としての信念を失い、遊んだり贅沢して、
   藩士や民を路頭に迷わせるようなことになれば、
   何の面目があって領地をいただくことが出来ようか。
   そんなときは必ず藩主を辞して隠居してしまえ。
右十五件之旨堅相守之以往可以申伝同職者也 寛文八年戊申四月十一日

   右15件の旨 堅くこれを相守り以往もって同職の者に申し伝うべきものなり 
   寛文8年戊申4月11日

   右15件の内容はこれを堅く守り、後に続く同職の者に申し伝えよ。 
   1668年 4月11日


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