これから何かに向かっていこうとしている自分の心は、水鏡のように清く澄んでいる。
徳川家茂の警護役に募集された浪士隊として上洛することを決め、旅立ちの前に自分の生きた証のひとつとして故郷に句集を残す…「ロマンチ」歳三のやりそうなことではある。
その句集の巻頭に独立して記されているのがこの句であるが、発句集で一番最後に詠まれたような気がしている。
まず四十句を書き付けた後に、句集の表紙を作り、巻頭にあたるページに、たった今詠んだこの句を書いたのかもしれない、と想像している。
何故ならこの句に込められているものは、上洛の決意そのものだからだ。
浪士隊に参加することで、近藤勇の試衛館道場で鍛えた剣の腕を試すことができるのだ。
どんなに興奮し、心躍らせたことか。この機会をつかんで何としても武士になってやるという野心もあっただろう。
歳三はそんな高揚感を鎮めて、「明鏡止水の境地」となって自分自身と向き合おうとしていたのかもしれない。
この句を記した当時の歳三には、おそらく思いも寄らなかっただろうが、幕末を一陣の風の如く吹きぬけた新選組の誕生へとつながっていく運命の決意だったのである。
(2006 3.31)
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