水の北 山の南だ 春の月
この句から思い起こすのが、
「菜の花や 月は東に 日は西に」
という与謝蕪村のあまりにも有名な句である。
歳三は「東西」を「南北」に置き換えて、月だけを詠みこんでいるかのようだ。
また、この句には「山の南」とあることから、山南敬助のことを詠んだのではなかろうかとの想像もできるらしい。
仮にそうだったとしても、あまり深い意味など隠されてはおらず、
「水の北側、山の南側、おお、そういえばあんたの名前も山の南だったね、これは奇遇奇遇」というような駄洒落でしかなかったのかもしれない。
ここは、素直に言葉どおりの風景を思い浮かべることにする。
春の朧にかすむ月が照らすのは、歳三ただひとりのような夜、そこには自分を生んで育てた山と水のパノラマが、
永遠のような一瞬に静かに広がる。
(2006 3.20)
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